大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和24年(ワ)371号 判決

原告 勝屋弘辰

被告 天理教肥後分会

一、主  文

被告は原告に対し熊本市新町一丁目九十六番地の三所在家屋番号同町第百七番木造瓦葺二階建住家一棟建坪四十坪四合外二階坪二十二坪の内階下四十坪四合及び右同番宅地百六十三坪八勺の内該家屋に附随する約八十坪を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は第一項に限り原告に於て金二万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

被告に於て金三万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに土地家屋の明渡を求むる部分につき担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として原告は昭和二十一年二月三日熊本市新町一丁目九十六番地の三宅地百六十三坪八勺及び同番所在家屋番号同町第百七番木造瓦葺二階建住家一棟建坪四十坪四合外二階坪二十二坪を訴外木村喜太郎より買受け、翌二十二年三月三十日これが所有権移轉登記手続を完了した。原告は熊本医科大学外科部長であるが、戰災に因り住家を失つた後は長女と共に間借生活を続け、他の家族全部を疎開させていたところ、その後家計上及び子女の教育上不便を感ずると共に職掌柄到底間借生活を継続することが困難な状況となつたので、疎開先の家族を呼寄せ同居する目的で右家屋を買受けたものである。然るに右家屋は前所有者所有当時より被告教会が期間の定めなく賃借使用して居り、原告に於て右買受により右賃貸人の地位を承継するに至つたので、原告は買受と同時に被告教会の主管者村田福造に対し右実情を訴えて明渡を求めた結果、昭和二十一年四月十八日被告は漸く階上のみの明渡に應じ以て契約の一部解除をなしたが、階下も可及的速かに明渡す旨諒解したので当分の間被告に賃貸使用せしめることとし、同時に右敷地の内約八十坪をも右家屋に附随するものとしてその儘使用せしめた。その後被告は右階下の部分を明渡そうとしないので原告は家族六名を擁して二階に雜居し、炊事万端を用達しているが、原告の妻は関節リユーマチスで飲料水等を二階に運搬する苦痛を訴えるし、原告の職掌柄門下生その他來客多く不便不如意であるので、せめて炊事のみでも階下に於てなすべく被告に階下の一部玄関横四疊半一室の明渡を求めたところ、被告はこれに應ぜず却つてその後、日ならずして昭和二十三年六月頃不信にも原告に無断で右一室を訴外新堀孝一に轉貸し同人及びその家族を居住せしめるに至つた。そこで原告は昭和二十四年五月二十三日附文書を以て被告に対し右轉貸を理由として残余の賃貸部分につき契約解除の意思表示をなしたので、該契約は既に全部解除せられたものである。仮りに右解除が有効でないとしても以上の如く一方に於て原告が本件土地家屋の明渡を必要とする事情にあると共に他方に於て被告が右の如き不信行爲をなした以上原告に於て右契約につき解約の申入をなす正当の事由があるので、昭和二十四年五月二十三日附内容証明郵便を以て被告に対し解約の申入をなしたから、その後六ケ月の経過により既に契約は解除せられたものである。よつて右土地家屋の明渡を求めるため本訴請求に及んだ旨陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並びに被告敗訴の場合の担保を條件とする仮執行免脱の宣言を求め、答弁として原告主張事実中原告が原告主張の日時主張の如き土地家屋を訴外木村喜太郎から買受け、主張の日時所有権移轉登記手続を了したこと、被告が右訴外人より右家屋及その敷地を期間の定めなく賃借使用していたこと、原告が右買受により賃貸人の地位を承継したこと、被告が原告主張の頃原告に対し右家屋の階上に居住することを許容し右敷地の内右家屋に附随する約八十坪を残し他を原告に使用せしめるに至つたこと、原告の家族世帶員数が原告主張の如くであること、被告が原告より階下の一部玄関横四疊半一室の明渡を求められ、これを拒絶したこと原告主張の頃被告が右一室に訴外新堀孝一を居住せしめたこと、原告主張の日時頃被告が原告から右賃貸借契約につき解約の申入を受けたことはこれを認めるが、原告が本件家屋を買受けるに至つた事情は知らない。その他の原告主張事実は総てこれを否認する。訴外新堀孝一は被告教会の信徒で出嫁のため熊本市に轉住し來り、宿泊所がなく困惑していたから被告主管者が一時的に同居せしめたに過ぎないので轉貸ではない。仮りに轉貸であるとしても現今の如き住宅拂底の際宗教法人たる被告が余剰部分を信徒たる住宅困窮者に使用せしめることは條理上正に当然な行爲であり、その使用せしめる部分が総面積五十三坪八合の内僅か二坪余に過ぎず、而も建物に対し何等造作模様替等をなすにあらず、單に宿泊炊飯の行わるゝに過ぎない状態であるのに、これを理由として契約を解除するが如きは解除権の濫用であつてその効力はない。又解約告知については被告教会は昭和十七年以來九年間もこの建物を使用して布教し、信徒の多くも附近地域に居住し、被告教会が他に移轉せんか信徒を失い教会としての使命を果すことができなくなるし、又教会としては相当大きな建物を必要とするのでその移轉は容易ではない事情にあるのに、原告は被告に無断で本件土地建物を買取り所有権を盾に無理無体に明渡を求めて來ているのであるが、被告はこれに対し原告の住居のないのに同情し、その苦難を救うべく原告に一時階上二十疊及び六疊の使用と空地の利用を許し(一部契約の解除でない)、住宅拂底の苦難を共に忍ばんとする態度に出ているのであつて、以上の両者の立場を比較考量すれば原告は現在の程度で忍ぶべきであり、原告がこれ以上を求むることは衡平を失するから該解約申入は正当の事由に基くものとは云へない。以上の理由で原告の本訴請求は失当である旨述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が昭和二十一年二月三日訴外木村喜太郎より熊本市新町一丁目九十六番地の三宅地百六十三坪八勺及び同番所在家屋番号同町第百七番木造瓦葺二階建住家一棟建坪四十坪四合外二階坪二十二坪を買受けたこと、当時被告が右訴外人より該家屋及び敷地を期間の定めなく賃借中であつたので、右買受により原告が右賃貸人の地位を承継するに至つたこと、その後被告が昭和二十一年四月十八日右家屋の階上を明渡し、原告がこれに居住し、右敷地の内約八十坪を除き他の部分を原告が引続き使用するに至つたことは当事者間に争がない。而して成立に爭のない甲第二号証の三、四、第四号証の二を綜合すれば被告は昭和二十三年二月頃本件家屋の階下の一部玄関横四疊半一室を賃料一ケ月金五十円の約定で訴外新堀某に轉貸した事実を認めることができるし、成立に爭のない同第一号証により原告が被告に対し昭和二十四年五月二十三日内容証明郵便を以て右轉貸を理由として前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、当時既に被告に到達したことを認め得るところである。

然るに被告は現今の如き住宅難の際宗教法人たる被告が余裕部分を信徒たる住宅困窮者に使用せしめることは当然のことであり、その使用せしめる部分が僅少に過ぎず、而も建物に対し何等変更を加へた訳でもなく、單に宿泊炊飯の行わるゝに過ぎない様な本件轉貸を理由に契約を解除することは解除権の濫用であると抗爭するのでこの点につき按ずれば、凡そ民法第六百十二條が轉貸を解除権発生原因と定めた所以のものは轉貸が貸主借主間の対人的信頼関係を破壊するに至るからであると解すべきところ、本件に於ては被告の轉貸した部分は本件建物の比較的僅少な部分に相当し、且つ右轉貸に際し建物に変更を加へた事実の認むべきものもなく、この点に於て被告主張の如く表面上客観的に表れたところは建物の使用関係に重大な変化を生じたものとは認められず、從つて右轉貸を理由として解除権を行使せしめることは被告に対し酷に失する様に思われるのであるが、飜つて前掲甲第二号証の三、四、第四号証の二によれば原告は戰災により家を失い、家族六名を擁して自己の安住の家として本件家屋を買受けたものであり、階上の明渡を受けた後はこれに家族全部雜居して炊事万端を用達して來たが、原告の妻が関節リユーマチスのため飲料水等を階上に運搬するのに苦痛を覚えたので、更に前記階下の一室の明渡を懇請したが被告の拒絶するところとなつたこと、然るにその後被告は原告に無断で前記の如く訴外新堀某に轉貸したことを認め得るのであつて、斯る事情の下に於ては被告としては余裕があるならば仮令右訴外人が信徒であり住宅に困窮していたとしても、同人に轉貸することなく原告の懇請を容れるのが情理上当然であつて、事茲に出でず無断で他に轉貸した被告の行爲は所謂信義誠実の原則に反し、対人的信頼関係を裏切るもので、原告は当然契約を解除し得るものと謂うべく、毫も解除権濫用の謗を受くべき筋合ではない。

果して然らば本件賃貸借契約は既に解除せられたものと謂うべく、從つて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項仮執行免脱の宣言につき同條第二項を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 池畑祐治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!